安西正鷹著『お金の秘密』を推薦する。安西氏はこの書で、信用創造の本質・しくみ・危険性・害悪を論じているのである。

通貨は公共財に似て左に非ず。本著は、通貨とは私益を目的とする商品の一種に過ぎないことを、明確に解明した画期的な著書である。
惜しむらくは、通貨の今後たどる道を明らかにしていないことだが、これはこの時点で一旦読者に考えさすべき主題であるから、本来は『お金の秘密上巻』とした方が良かった。下巻はむろん、通貨とその独占発行体の今後の命運を語ってくれることになるだろう。
われわれはその発行をただ待つのみであるが、それまでの間、自分の言葉で考えてみよう。

人類社会に対して通貨が発揮する作用で最も重要なものは、財貨と財貨の交換を媒介する触媒作用であろう。触媒としての通貨の必要量は、財貨の交換総量に応じて決まるが、触媒は化学反応の後でも減らないからで、通貨は市場に滞留する。
触媒としての通貨の賃貸料はすなわち金利であって、触媒としての需要すなわち財貨交換の必要性に応じて決まる。
  富は人類社会の不公平によって偏在する。
通貨には価値(富)を保存する機能があるゆえ、富を代替することができる。
人間の欲望に限界がないため富を追求して已まず、社会に偏在する富は限界なく膨らみ、これ代替をする通貨の量も果てしなく膨らむ。
これを可能ならしめたのが信用創造である。
問題は、財貨交換のための触媒としての必要量を、はるかに超える通貨を、富の代替品として信用創造してしまったところにある。
右をパチンコに譬えれば、通貨はパチンコの「出玉換金用の景品」と酷似しているのである。
換金用景品には実質価値がほとんどないが、景品がほしいのではなく、それが代替する富がほしくて人はパチンコをしに行くのである。
その景品が次回のパチンコにも使え、周辺の一般商店で買い物に使えるならば、景品を直ちに換金する必要はないから、人は景品を換金しないで手元に保有する。
換金用の現金がその分パチンコ屋に滞留するから、パチンコ屋はこれで新たなパチンコ屋を開店したり、他の事業に投資したり、或は客にパチンコ代として貸し付ける。当然ながら、収益や金利や、配当を受け取る。
パチンコ屋が客の金で好い目が出来るのは、どうみても不公平の始まりである。
パチンコ屋が遊客に出した景品の残高はとめどなく膨らむが、パチンコ屋には最早それに対応する現金を置いていないから、一斉に換金要求を受けたら絶対に応じきれない。
そこでパチンコ屋は夜逃げしてしまうしかないが、後処理を頼まれた管財人は、景品の換金率の切り下げで対応せざるを得ない。
すなわち、いつの間にか発生した不公平が、解決しないままに固定したのである。

 信用創造は一概に悪くはないが、人間の富に対する欲望のせいで、必ず行き過ぎるのである。
以上みたことは、パチンコ屋ではなく、国際金融界で起こっているのだが、大きすぎて視界に入らないのである。
やがてカタストロフィーがやってくるが、その時の処理は、換金率の切り下げしかない。これをインフレといい、圧倒的多数の通貨所持人・預金者に損失を強制するが、これが相対的な公平なのである。
インフレは借り得を発生させ、実物資産保有者の富を拡大させる。これは絶対的な不公平なのである。この解消は、自主放棄(淀屋辰五郎)か放棄強制(無産革命)しかない。
 
まあ、こんなところだが、これで当たっているかどうか、安西先生に教えていただきたい。
     
                 平成25年【2013年】1月2日
                         南狸坊識