狸仙経済夜話 

第一話 アメリカが試用した土地本位制の崩壊

 6・アメリカの土地本位制

日本でバブルが崩壊したのは平成2〜3(1990〜91)年ですが、その後20年間も、好景気らしいものは全くありません。何時だったかIT景気と言われた時期がありましたが好況の実感は全くなく、平成202008)年になって漸く、中国向け輸出によって経済回復の兆しが見えました。その間、アメリカ・イギリス・EUでは資産下落もなく、そこへ開発途上大国のBRICsが追い上げてきて、日本経済だけが落ちこぼれました。この20年は、日本だけがデフレに苦しんでいたのです。

アメリカでは、アラン・グリーンスパンが1987(昭和62)年のレーガン政権時にFRB議長に就き、2006(平成18)年迄、20年近くその座にいました。グリーンスパンは1989年、パパ・ブッシュ時代のインフレを、10%近い高金利で抑制した後、景気が悪化したために4%まで下げました。クリントン時代の1992年には、景気回復のために財政赤字の削減と長期金利の低下を掲げ、以後は低金利(といっても5%以上)で失業率とインフレ率を低く抑え、1990年前半のアメリカ経済を順調に運営しました。

1996(平成8)年、グリーンスパンはクリントン大統領から3期目のFRB議長に任じられますが、この頃からアメリカで「ドットコム・バブル」が起り、インターネット関連企業の株式が異常に高騰しました。通信関連銘柄の多いナスダック総合指数は、1996年には1000だったものが、1999年には2000に、さらに2000年には5048の高値を示現しましたが、2001年には弾けて、2002年には元の1000に戻ります。このバブルを金融側で支えたのが、ルービン財務長官とグリーンスパンでした。

ドットコム・バブル崩壊の過程で、大統領がクリントンからブッシュ・ジュニアに代わり、ブッシュ新政権は、当時始まっていた住宅バブルに便乗して、アメリカ経済を活性化しようとしました。これを金融支援したのもグリーンスパンで、アメリカの住宅価格は1996年から2006年にかけて、平均で3倍に上昇します。

2004(平成16)年、小ブッシュから5期目のFRB議長に任命されたグリーンスパンは、2006年1月まで在職しましたが、辞職後の20089月に、住宅バブル崩壊に端を発する金融危機が世界を覆いま、その原因は、グリーンスパンによる数度の金融緩和と指摘されています。グリーンスパンは何故低金利に拘ったのか。狸仙は『月刊日本』平成22(2010)年1月号に、次のように書きました。

FRBの議長を長く続けて、当時は名議長と呼ばれたグリーンスパンは、今や「住宅バブルはFRBが意図的に借入コストを低く、しかも長期に押さえつけてきたから酷くなった」と非難されているが、今年(2009)年8月17日付のロイター通信によれば、「自分は金利を上げたかったが、グロ−バル・フォース(複数形)が圧力をかけてきて、そうせざるを得なかった」と反論し、国際勢力がFRBの上位に在ると云う内情を、当事者として暴露してしまった、という。

グロ−バル・フォース(複数形)の定義や説明を、グリーンスパンは示さないが、イギリスでも低利融資で市民を借金漬けにした「ザ・シテイ」と同じもので、私がワンワールドの金融部門と呼ぶものである事は間違いない。(中略) しかし、FRBとThe CITYに低金利を強制したのは、何のためであったのか?

グローバル・フォース(複数)とは何ものか。アメリカの金融政策の策定と実施を任務とするFRB議長は、大統領が上院の助言と承認に基づいて任命しますが、大統領に対して政府機関中最も強い独立性を有し、世界経済に対する影響力が絶大であるため、「アメリカ合衆国において大統領に次ぐ権力者」とされています。つまり、この職に在る者に対し、圧力を掛けて何かを強制する立場の者なぞ公式にはいません。とすれば、グリーンスパンに圧力を掛けて本人が望む金利引き上げを妨害したのは、非公式な存在ながら、FRB議長を押さえつけるほどの実力を有する金融ワンワールドの首脳たち(複数)と見るよりほかありません。言い換えれば、FRB議長は金融ワンワールドの一員ではあるが、首脳ではないのです。

表向きには居ないとされ、学校教育では全く触れられない金融ワンワールドの存在を¥、グリーンスパンが明らかにしたのです。日本の学校教員方もメディアの論客も、「ワンワールドか何だか知らないが・・・・」などと斜に構えてばかりいずに、事実を直視して洞察した真相を、勇気を持って発言すべき時機が、今や到来したことを悟らねばなりません。

回り道をしましたが、狸仙の2年前の疑問、すなわち「FRBとThe CITYに低金利を強制したのは何のためであったのか?について考えてみましょう。これは、どうみてもアメリカとイギリスの住宅バブルを煽り、しかもそれを行き過ぎるまで持続させるため、としか考えられません。日本の場合は、プラザ合意によるドル買い資金の大量散布により、余剰資金の量的圧力を資産市場に加えて、土地バブル・東証バブルを起こしたものですが、米英の場合も低利を手段とし、ほとんど無きが如き緩過ぎる条件で住宅金融ローンを組むことで、故意に住宅バブルを作り出したのです。

三重野利上げで日本のバブルが崩壊してからは、榊原さんがいくら金利を下げても地価が再び上昇する動きが見られなかったのは、何故でしょう。狸仙はそれを、金融機関の意図的な貸し渋りにより、国内に資金が流れなかったからだと解釈しています。貸し渋りの目的は、欧米各地で住宅バブルを起こさせるための低利資金を、日本から海外へ流すためであったと思います。つまり日本を犠牲にして、欧米で住宅バブルを起こさせたのです。

日本ではプラザ合意後にバブル化した地価が、その後はバブル崩壊により急落したため乱高下を呈し、長期的な地価の動向が掴みにくくなっていますが、もう落ち着く頃合でしょう。現状の不動産収益利回りが預金金利を大幅に上回っているのも、資産市場に資金が回らないため、総じて割安化しているのです。これは、株式についても同じことが言えます。

日本の土地本位制がうまく回転しているのを見たのか、東南アジア各国でも土地本位的な動きが生じました。狸仙は当初それを、コスモポリタンの漂泊性と対照的な東南アジア人の定着型社会が愈々土地本位制に向かって動き出したものと観ていましたが、日本のバブル崩壊以後はどうなったのか、事実を追認していません。しかし、そんなことよりも、何しろあの中国が、不純不完全ながら急速に土地本位制に向けて走り出しました。

それよりも驚いたのは、米英に加えてスペインにも住宅バブルが発生したことです。ここにおいて、狸仙がかつて主張した金本位制と土地本位制とを対照させる考え方は、変改を余儀なくされました。土地本位制は洋の東西や社会体制の相違を超えて広がりつつあります。現状は住宅バブルの崩壊で、金融秩序は世界的に崩壊の危機にありますが、これが落着したら、今後の世界は土地本位化されていくのではないか、と今は思っています。

正確に言えば金・土地複本位制の登場で、それを主導するのは日本の様な気がします。否、それは世界最初に土地本位制を採用し、ゼロ金利を実施した日本でなくてはならないのです。資産バブルの発生と共に、消費経済が活性化するのは、どの社会にも共通する普遍的現象です。金融緩和と資産上昇による心理的効果で社会的アドレナリンが大量に分泌し、消費マインドが高まるからです。先行した日本バブルを観察した金融ワンワールドは、住宅バブルの過程で過剰消費が発生することを確認した筈で、その後、日本にゼロ金利を押し付けながら国内貸付を禁じ、その資金を欧米並びに中国に誘導して、各地の過剰消費を誘発したのではないか。つまり過剰消費こそが、2000年代から各国で起こした住宅バブルの真の目的だったのではないかと、思われます。

何のために過剰消費を企んだのか、と問われれば、狸仙も明言を以て答えることはまだ出来ません。しかし、コスモポリタン首脳は、明確な目的意識を以て、金融政策による社会操縦を企んでいることは事実と思います。おそらく、信用通貨制度の根幹に生じた不具合を、カタストロフィー的に解消するための方法ではないでしょうか。信用通貨制度はゼロ金利制の普及を以て消滅し、後は通貨の不要な社会が到来するものと予感します。それにはエネルギー・コストがカギとなりますが、その具体像を明確に描くことが、狸仙にはまだ出来ておりません。

    平成232011)年916日

                               狸仙道人識