信用通貨「複素数」論
                         平成26年4月22日

信用通貨の根拠は暴力装置
そもそも信用貨幣制度は、元禄期の幕府勘定奉行荻原重秀が世界で最初に発見した「公信力の原理」(貨幣国定説)のうえに立つ制度であって、当時の江戸幕府の国家統治力、すなわち軍事力と国家管理貿易(経済鎖国体制)を前提にした貨幣の「強制通用性」を基本的要件としている。
アメリカの経済学者ケネス・エワート・ボールディングは、伝統的経済学が表わすのは世界の一部に過ぎないとして、経済学(社会科学)の領域を広げ、等価交換の財的経済だけではなく、「贈与経済」つまり「愛と恐怖」に支配される非等価交換の心理的経済の存在を主張した。
これを私が教わったのは昭和四十三年のことで、経済企画庁調査局内国調査課でこの説に接した私がその途端に想到したのは、「分業で成り立つ人類世界において、他人を意のままに動かす「力」の根幹は、「財」すなわち生存必需物資との交換か、「暴力」すなわち物理力による強制の二通りしかないこと」であった。

「財」とは何か
「財」とは、他人の行為ないし財貨との等価交換を要求できる物資であるが、その必要条件は、五感で実在が把握でき、個人的占有が可能なことで……それが要するに金(ゴールド)なのである。「本位財」とされるためには、生存必需物の最大公約数、すなわち「必需物資との交換性を有する現実の物質」でなくてはならず、普遍的価値のある財とは具体的には金(ゴールド)のことである。
畢竟、金本位とは金融制度の一種ではなく、生存必需物資の最大公約数を金(ゴールド)とする人類の共通認識、換言すれば「金(ゴールド)の有する交換価値に対する信頼の共有」が本質なのであって、要するに自然現象である。因って、自然通用力を本質とする本位通貨は、別名「自然通貨」とも呼べることになろう。

「信用」とは何か
また「信用」とは心理的な通用強制力のことで、本質は潜在する「暴力」である。兵器を用いて行う対人作用すなわち「暴力」の存在は、現実にこれを用いずとも、「威嚇」により生じる脅迫が効果を発揮して、他人に行動を強制することができるのである。
したがって、信用通貨制度とは、「誰かが何かを信用する」のではなく、「通貨を他人に押し付けてその行為を強制する心理的強制力」なのである。心理的強制力には「暴力」だけでなく、「愛」とか「教義」、さらには「言論」「詐欺」など何種類かあるが、最も明確で強力なのは「暴力」であるから、とりあえず「暴力通貨」と呼ぶことにする。
その典型は「軍票」である。

管理通貨は「財」と「暴力」の合成関数
金本位制では、通貨の本質を自然通用力を有する「金」と観て、これを「本位」と呼ぶこととした。自然通用力を有する物資が「金」以外にもあればそれも「本位財」であるが、本位財がすべてを支配する世界は結局のところ空想と判り、第一次大戦後の世界では信用通貨が存在を認められて、金融制度は管理通貨制度に移行した。
管理通貨の価値は、発行者すなわち覇権が、支払準備として保有する本位財の量と覇権国の軍事力の合成関数として表わされるが、覇権が軍事力に依存するほど本位財に裏付けられた実質的価値が乏しく、強制通用性を本位とする暴力通貨すなわち軍票となる。旧ソ連その他の共産主義国や全体主義国家の通貨は典型的な暴力本位制で、その代表のソ連ルーブルは軍票に過ぎなかったため、国家経済の破綻と同調した強烈なインフレにより、雲散霧消してしまった。 
現在世界通貨とされている米ドル($)は、米国の軍事的一極支配が進んだ結果、しだいに軍票化してきた。近い将来、世界が多極化して米国の軍事力が相対的に減退すれば、$の実質価値は急速に縮小して強烈なインフレが生じる事は必定である。

管理通貨の「複素関数」的表現
信用通貨における「信用」の本質は、国家の暴力装置による心理的圧迫すなわち「強制通用力」であるから、信用通貨は別名で「暴力通貨」とも呼べるわけである。これは、被害が現実化する前に感じる人間の恐怖心を本質とするもので、物理的実質がないため、「単位」は虚数(i)で表わされる。結局のところ、一国の通貨の在り方は、「本位財」を実数で、「暴力」を虚数(i)で表すガウス平面の上の複素数z=r(cosθ+i・sinθ)としてその性格を表現できる。
つまり、管理通貨のもっとも単純な表現は、暴力性を虚数で表わし、本位財を実数で表わした『複素関数』である。虚数には「暴力」だけでなく、「愛」とか「教義」さらには「言論詐欺」など何種類かあるが、、最も明確で強力なのは「暴力」であるから、とりあえず、ガウス平面でz=r(cosθ+isinθ)とすれば間に合う筈である。
ここでrは通貨価値の絶対値である。rcosθは通貨価値中の実数部分で、本位財による裏付けすなわち「自然通用力」を表わし、i・rsinθはその虚数部分すなわち「暴力的強制力」を表わす。θは偏角で、完全金本位制の際にはθ=0すなわち横軸であり、ゲリラ勢力が発行する軍票のごとく、強制通用力の他に何の裏付けもない場合はθ=π/2すなわち縦軸である。
金本位制では、通貨は自然通用力、すなわちガウス平面の実軸上(θ=0)にだけ存在したが、「本位財」がすべてを支配する世界は結局空想と判り、第一次大戦後の世界では信用通貨が認められて、金融制度は管理通貨制度に移行した。
旧ソ連その他の共産主義国や全体主義国家の通貨は典型的な暴力本位制で、ガウス平面の虚軸上(θ=π/2)にだけ存在した。これはソ連ルーブルが軍票に過ぎないことを意味し、国家経済の破綻と同調した強烈なインフレにより、雲散霧消してしまった。
現在の代表的な世界通貨の米ドル($)は、米国政府の保有する本位財(rcosθ)と米軍の軍事力(r・isinθ)の関数として、$=r(cosθ+isinθ)の式で表わされるが、$の総発行量rがとめどもなく増大するので、第一項の量的裏付けrcosθが相対的に縮小し、すなわち偏角θが増大して$の価値の中での軍事力r・isinθの割合が急速に増大している。
偏角θが大きいほどその通貨の実質的価値が乏しいから、$はしだいに不安定化し、軍票化してきたわけである。やがて米国の軍事力(isinθ)が相対的に減退すれば、$の絶対値は急速に縮小して強烈なインフレが生じる事は必定であろう。

                落合莞爾