揺れる真贋
武生市の佐伯「未公開」作品
修復家の目 分析結果は“三者三様”
「このキャンパスの写真を見てください。絵の具もごわごわ。どう見たって、2年や3年前の
ものではない。贋(がん)作騒動は2,3ヶ月もすれば、笑い話になりますよ」
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昨年12月26日、京都市にある絵画の修復工房。武生市への寄贈作品に贋作の疑いが
持たれていることに対して、工房の主の杉浦勉氏は、資料を見せながら解説した。古い絵の
具は、絵の具がひび割れたり、表面に塗ったニスが変色したりしているものが多いため、
“化粧直し”が必要だ。杉浦氏は、武生市の依頼で寄贈作品17点(うち1点は両面に描いて
いるため18面)を預かり、この日までに5点修復していた。
武生市に絵を寄贈した岩手県遠野市の女性(51)所有の作品群が最初に修復家の目に
触れたのは、2年前の2月中旬。東京と豊島区にある造形美術学校修復研究所に、女性の
代理人役を務める美術出版業者(40)が運び込んだ。東京美術倶楽部に鑑定を依頼する
1週間前だ。全部油絵で、35点。「これまで知られている佐伯の傑作とは感じが違うが、
デッサン的な作品の可能性もある」と説明し、キャンパスを木枠に張ることや寸法取り、
修復を依頼してきたという。
同修復研究所では、3年ほど前から山発コレクションとして知られる大阪市所蔵の30数点の
佐伯作品を修復している。キャンパスの地塗りや絵の具の分析、X線による検査から欠損部分
の直しまで、1点の調査・修復に約3ヶ月。佐伯の絵を科学の目で解剖したデータと経験をもっとも
蓄積しているところだ。
所長の歌田眞介氏は、「毎日、毎日、山発コレクションと向き合ってきた目からは、佐伯の
作品とは思えなかった。その場にいた10人余りの研究員全員が同じ意見だったので、2日
ほどたって引き取ってもらった」と振り返る。そして、「修復していないから、ほかの修復家
の意見と同列に考えられては困る。うちにあるデータは、200点、300点ともいわれる佐伯作品の
一部の分析結果だが、今回の作品の修復報告結果が出れば比較してみたい」と話した。
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70年近く、桐箱の中で眠っていたといわれる今回の作品群に触れた修復家がもう一人いる。
横浜市青葉区に工房を構える黒江光彦氏だ。昨年、武生市への寄贈分とは違う作品10数点を
手がけた。かつて山発コレクションの作品を修復した経験も持つ。
黒江氏は、「真贋を言う立場にはない」と断ったうえで、「山発の修復の時、ニスを2回塗ら
ないと黒い線がくすんだままで生きてこなかった。佐伯と交遊のあった故荻須高徳画伯に
聞いたら『佐伯は展覧会に出す前はニスを厚く塗っていた』という。圧塗りを計算して描いていた
と思った。今回の作品にもにたような傾向がある」と語る。
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厚塗りの秘密は、荻須画伯と自分の二人しか知らないはずだという。黒江氏は、「ニスの
ことだけで本物とは言えない。既存の佐伯作品とは画風も違う。しかし、研究する価値は
あるとい思う」と付け加えた。
修復家の目も、三者三様だ。「笑い話で終わる」かどうかは、まだわからない。
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