「1点は数年内の偽作」
武生市に寄贈の佐伯作品東京美術倶楽部が鑑定
絵の具未酸化 画布にテトロン含有
大正から昭和にかけて活躍した洋画家、佐伯祐三の未公開作品が大量に見つかったとして
福井県武生市が寄贈を受けた油絵の一部は贋作の可能性が高まった。市が公開した寄贈作の
一点(仮称「モランの風景」)が画商の鑑定機関、東京美術倶楽部鑑定委員会(東京都港区)に
よって「数年以内に描かれた偽作」と判断された。同倶楽部は25日、東京で鑑定委員会を開い
て対応を検討する。武生市は独自の選定委員で「真作」と判断しており、真贋論争に発展しそうだ。
寄贈したのは、岩手県遠野市、主婦、吉薗明子さん(50)。「東京にいて精神カウンセラー
だった父が生前の佐伯を援助していた関係」で、油絵、デッサン、書画など200点近い作品
を保管してきた。
吉薗さんは、東京都台東区の美術品販売会社社長(40)に相談。この社長が昨年4月、東京
美術倶楽部に油絵16点、水彩画30点を持ち込み、鑑定を依頼した。
佐伯作品について同倶楽部鑑定委員会が担当。佐伯は10号の傑作品で2億3千万円と、物故
作家では岡鹿之助、坂本繁二郎、岸田劉生に次ぐトップクラスの評価を得ているが、業界では
同倶楽部の鑑定書がないと取引対象にならない。同月25日、鑑定委員会の画商と佐伯の研究で
知られる美術評論家、山尾薫明氏らが鑑定した。この時点で「佐伯作品ではない」との見解が示された。
同委はさらに科学調査を実施した。関係者によると
@キャンパスがテトロンを含んでいる
A絵の具が酸化していない
B画布を打ち付けくぎは顕微鏡調査ではさびていない
― ことが判明し、「数年以内に描かれた偽作」と判定した。
一方、吉薗さんは今年、武生市に「佐伯作品」の寄贈話を持ち掛け、交渉の結果、9月になって
市に38点が寄贈された。市はさらに数十点の寄贈を受けるほか、11点を約5億円で購入し、
収蔵先として市公会堂に3億7千万円で「武生佐伯祐三記念美術館」を設置する方針を決めた。
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