修復家は、実際の作品を評論家以上に詳細に見て修復する訳ですから
その意見は非常に重要な意味を持ちます。
●特に「米子書簡1」,「米子書簡2」で米子の加筆が暴露された現状では、杉浦氏の「武生市に寄贈された作品は人の手
が加わっていない」という指摘は、非常に大きな意味を持っていると思います。
逆に、人の手の加わった作品のデータを基準とした贋作であるとの判断はナンセンスだと思います。
●杉浦勉(「アトリエ杉浦」 京都市左京区)・・・今回5点の修復に当たった
*(東京美術倶楽部が、贋作と鑑定したことに対して)同倶楽部がどれほど佐伯作品を見ているか疑問。
佐伯がパリから吉薗周蔵氏に作品を送った際、くぎは抜いている。キャンバスの素材にしても本当に見て
いるのなら麻であることは一目りょう然。武生市に寄贈されてしまえば、同倶楽部が吉薗コレクションを扱
わせてもらえないということだ。半年もたてば、自分たちが言ったことがいかに悲劇か分かるだろう。
(福井新聞平6年11月25日)
*佐伯祐三の作品は20点近く修復しているが、武生市に寄贈された作品は人の手が加わっていない、
うぶな状態で保存状態はよかった。これまでの佐伯の公開作品はいずれもアトリエで再構築されたもの
ばかりだったが、武生市の作品は路上で描かれたもので、路上作品は今回初めて世に出たことになった
という点で貴重だと思う。私は贋(がん)作を持ち込まれて修復したことがない。今回も贋作の疑いがあるなら
修復を断っている。(福井新聞平6年11月26日)
*このキャンパスの写真を見てください。絵の具もごわごわ。どう見たって、2年や3年前のものではない。
贋(がん)作騒動は2,3ヶ月もすれば、笑い話になりますよ。(朝日新聞平7年3月2日)
●歌田眞介(「修復研究所」 前所長) 吉薗コレクションの修復を依頼されたが、断る
*佐伯の絵っていうのは、筆捌きも速いし、絵の具の発色も凄くいいし、緊張感もある。だけれど、われわれ
が見た絵は、佐伯のどの絵よりも鈍い色を使って描いている。結局そういうわけで、修復はしないと言って、
断りました。(NHK 「クローズアップ現代」)
*毎日、毎日、山発コレクションと向き合ってきた目からは、佐伯の作品とは思えなかった。その場にいた
10人余りの研究員全員が同じ意見だったので、2日ほどたって引き取ってもらった。修復していないから、
ほかの修復家の意見と同列に考えられては困る。うちにあるデータは、200点、300点ともいわれる佐伯作品の
一部の分析結果だが、今回の作品の修復報告結果が出れば比較してみたい。(朝日新聞平7年3月2日)
●黒江光彦氏(横浜市青葉区)
*真贋を言う立場にはないが、山発の修復の時、ニスを2回塗らないと黒い線がくすんだままで生きて
こなかった。佐伯と交遊のあった故荻須高徳画伯に聞いたら『佐伯は展覧会に出す前はニスを厚く塗っていた』
という。圧塗りを計算して描いていたと思った。今回の作品にもにたような傾向がある。厚塗りの秘密は、荻須画伯と
自分の二人しか知らないはずだ。ニスのことだけで本物とは言えない。既存の佐伯作品とは画風も違う。しかし、
研究する価値はあるとい思う。(朝日新聞平7年3月2日)
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